純情エゴイスト

□心と体
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 心が掻き乱れる
 冷静でなんていられない

 感情も何もかも全てが
 グチャグチャになる

 あなたの存在がそうさせる

 でも それは 
 あなたに"恋"してるから…


追われる程仕事がしたい。

この想いから逃げる、その場凌シノぎでもいいから。

野分を感じられる唯一の場所である家は、弘樹にとって苦痛を与える場所に変わってしまった。

時間ギリギリまで仕事をして、家には寝るためだけに帰る…弘樹は独りで家にいるのが堪えられなかった。

我ながら女々しい考えだと思う。

野分のいない寂しさを仕事で紛らわせるなんて…。


十二月も二週目に入り、休日も近づいてきたある日。

宮城は持ち帰る予定の資料を大学に忘れ取りに戻っていた。

残っている者も少ない夜の大学で上條の部屋に電気がついていた。

(あいつ…まだ残ってんのか。)

なんとなく気になり、上條の部屋に向かう。

案の定、机に向かって仕事をしている上條の姿が映る。

「おい、上條…お前まだ残ってたのか。」

持っていた資料で上條の頭をたたきながら苦笑気味に話しかける。

「あー教授、お疲れ様です。」

どこか疲れている様子の上條の返答に宮城は首を傾げる。

「お前、急ぎの仕事なかっただろ?」

そう…上條は今仕事が落ち着いている為、残ってまでやらないといけない仕事は無いはずなのだ。

「今やってるのが終わったら、帰りますよ。」

何気なしに上條の机に視線をやると思わず眉間に皺が寄る。

「てか、それ来週提出のやつじゃねぇか!お前、それは明日にして今日はもう帰れ!!」

机に広がっている資料やらは全て来週・再来週に必要なものばかりなのだ。

それによく見れば、今週に必要なものは端の方にまとめて置いてある。

「あと少しなんで、片付けてから帰りますよ。」

机の資料に目を通し始める上條から資料を取り上げる。

「外は暗いし、寒い。いいからもう帰れ。」

「でも・・・」

「上司命令だ。」

「……わかりました。」

やっと帰り支度を始めた上條に宮城は頭を抱える。

(なに必至になってんだ、こいつは。それに、もしかすると飯も食ってないんじゃ・・・)



宮城の訝しげな視線を背中に受けながら正門で別れた弘樹は静かに息をつく。

(どうしようかな、これから。)

教授に見つかったいじょう探りを入れられるのは目に見えている。

だが、弘樹はその言い訳を考えるよりも、次は何で時間を潰せばいいのか…そっちを考えるのに必死だった。

そして家に着く頃に浮かんだのは、本だった。

(今まで買った本を一から読み直そう。)

弘樹が持っている本の量は膨大だが、それはかえって好都合だった。

そして、弘樹は本にのめり込んでいく。

時間から逃げて。



 
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